本や冊子の厚さを「束(つか)」と言い、背幅とほぼ同じです。束はどう決まる? 束見本とは? 等まとめました
この記事の目次
「束(つか)」または「束幅(つかはば)」
本の厚さのことを「束(つか)」または「束幅(つかはば)」と言います。
出版業界では、
・厚い本を「束がある」と言い、
・もう少し厚ければいいね、という場合に「もっと束出したいね」と言い、
・厚さを尋ねるときに「束幅、何ミリ?」と聞く、
という具合に、この言葉を使います。
基本的には、束幅は背幅と同じです。
背は本を本棚にさした時に、見える部分。この幅を背幅といいます。
本の表紙の版下を作るときには、背幅が何ミリか知る必要があります。
版下については、こちらの記事をご覧ください。
束はどう決まる? ←ページ数と表紙の厚さ
まずは、もっともシンプルな冊子の場合で考えていきます。
本文部分が全部同じ紙で、そこに表紙が違う紙で付けられている場合です。
いま、本文が80ページ、表紙も含めると84ページの冊子を編集しているとします。
1本文)紙の厚さが0.1ミリ。80ページ。
2表紙)厚さが0.2ミリ。4ページ。
だとします。
(ネット印刷や同人誌印刷などでは、表紙分を4ページとして合算する場合が多いです。書籍業界では通常、表紙はページ数に含みません)
1本文)の枚数ですが、本や冊子は裏表印刷されて2ページで1枚になるので、80ページは40枚です。
つまり、0.1ミリの紙が40枚重なるということ。
ここから厚さを計算すると
0.1ミリ×40枚=4ミリ
2表紙)については、冊子の裏表で1枚ずつ、2枚分を計算します。
ここから厚さを計算すると
0.2ミリx2枚=0.4ミリ
この合計、本文用紙4ミリ+表紙0.4ミリ=4.4ミリ。これが束幅ということになります。
束幅はページ数と紙の厚さで決まる
ページが増えるほど束幅は大きくなります。
先ほどの例で、本文のページ数が2倍の160ページになれば、束幅は4.4ミリから8.4ミリとほぼ2倍になります。
ただし、束幅は紙の厚さでも変わります。
ページ数は80ページのままでも、紙を2倍の厚さの0.2ミリにすれば、束幅は4.4ミリから8.4ミリになります。
つまり、80ページの本が薄くて売れそうにないなあ、と思ったら、
1)中身を増やして厚くすることもできる
2)紙の厚さを増やして厚くすることもできる
ということなのです。
私は書籍業界に就職して、この事実を知ったときに結構衝撃を受けました。
中身を増やさずに、紙の厚さで本の厚さを変えてしまうなんて、そんなのあり?
と思ったのです。
中身/コンテンツにふさわしい束がある
ただし、そこには、相応の理由があります。
実際に、この記事を読んでいる皆さんも、次のような本を手にしたことがあると思います。
・辞書:ページ数が非常に多いので、ツルツルした薄い紙。
・小学生向けの図鑑:頑丈で分厚くて発色のよい紙。
・コミック(漫画の単行本):やや厚手の紙。
この感じを思い出してもらうと、それぞれが、中身に適した紙であり、束であることがわかると思います。
【コミック】
→辞書みたいな薄っぺらい紙に印刷されて全然厚み(束)もなかったら、読みにくい。読む前のワクワクする感じも減りそうです。図鑑のような厚い紙でも扱いづらい。
【辞書】
→図鑑のような頑丈な紙が使われていたら、厚くなりすぎて持ち運びできない。コミックみたいな紙では破れそう。
【図鑑】
→辞書の薄い紙だと、すぐにヨレヨレになってしまう。コミックの紙は耐久性も劣り、カラー印刷の発色がよくありません。
つまり、一つのコンテンツの束を決めることは、紙を決めること。
そして、それぞれにちょうどよい束と紙があるのです。
冒頭で「もっと束出したいね」という言葉を書きましたが、
内容、予定価格、中身などの兼ね合いから、束をどの程度にするのがよいか?
この検討は、出版社では常にされている事柄です。
コート紙と書籍用紙
ネット印刷で冊子を作ろうとすると、コート紙が安いです。
コート紙は光沢があり、発色もよいです。
印刷の標準的な紙なので、コストも抑えられます。
でも、コート紙で作った本は、見た目の割に重いです。つまり、束幅が少ない割に重いです。
その分、表紙を頑丈にしておかないと、たわみます。
逆に、書籍用に作られた「書籍用紙」は、発色はやや劣るもののコート紙よりも軽く、本にした時の風合いがよいのです。
つまり、束と中身/コンテンツのバランスがとりやすい。
そういう風に作られた、書籍向けの紙ということなのです。
この記事を書いている2021年の7月の時点では、ネット印刷の安さは驚異的なので、小部数の冊子印刷となるとコート紙以外は難しいのが実情です。
見返しなどが入るとさらに束幅が増える
ネット印刷で冊子を作る場合のように、本文と表紙だけで製本される場合は、ここまでに書いた計算でよいのですが、書店で販売されるような商業出版の本の場合は、
・見返し
・別丁扉
などが入る場合があります。
この紙の分、束幅は大きくなります。
また、ハードカバー/上製本の場合は、表紙にボール紙を入れます。
ボール紙の厚さもいろいろあって、その選び方によっても束幅が違います。
それらを把握して進行することも、編集作業上、必要となります。
例えば、デザイナーに「束、何ミリですか?」と聞かれたときに答えられないと、作業がストップしてしまうかもしれません。
束見本を作ると束が正確にわかる
束を把握するのに、いちばん良いのは束見本(つかみほん)を作ることです。
束見本は、印刷されていない紙を製本したもの。紙にもよりますが、中身は真っ白で、外見も真っ白です。
ページ数や使う紙が決まったら、この束見本を作るのが一番うまくいくやり方です。
束見本を作るには、次の点が決まっている必要があります。
・判型(四六判、A5判、A4判、B5判など)
・本文のページ数
・製本(ソフトカバーかハードカバーか、ハードカバーの場合のボール紙の厚さや背の仕様→丸背、角背)
・別丁扉の有無と用紙
・見返しの有無と用紙
・表紙の用紙
束見本を作って、真っ白い本のページをめくっていると、出来上りのイメージがふくらみます。
編集者にとっても、制作や販売に携わる仲間にとっても、デザイナーにとっても、こういう過程があることは理想的といえます。
ただし現実的には、ページ数が決まるのが遅くなったり、紙の決定もズレこんで束見本を作る時間がない場合も多いです。
こういった場合は、似たような紙を使っている本を参考にして計算することになります。
私が編集してきた本の場合、束見本を作ったものは1割もありません。
束幅と背幅が違う場合がある
最後に束幅と背幅が違うというケースです。
ハードカバーの本の多くは、丸背(まるぜ)と言って、背の部分が丸みを帯びています。
この丸背の場合は、束幅よりも背幅が少し大きくなります。
少しではありますが、デザインによっては、その少しが致命的になったりするので注意が必要なのです。
なお、ハードカバーには角背もあり、その場合は束幅と背幅が一緒です。