縦組みの右綴じ本、横組みの左綴じ本、両方混在の「和洋折衷本」!?その違いや組版についてまとめます!
たて組とよこ組が混在する日本の印刷物。
欧文や数字は半角/全角どちらにするとよいでしょう?
また、開き方は縦組みなのに中身は横組み、「和洋折衷本」を作る際のポイントもまとめました。
この記事の目次
縦組みは世界では特殊なもの
昔、インドネシア・ジャカルタのゲストハウスに泊まったときのことです。
共有スペースのテーブルで本を読んでいたら、向かい側に座っていた欧米バックパッカーの娘さん、7~8歳くらいの女の子がじ~っと私を見ていました。
なんだろう?と気になったら、その子のお母さんと目が合って、
「ごめんなさいね。この子、あなたが縦に本を読んでるのが不思議なんだって。アジアには縦に文字を書く言葉があるじゃない?」
との事でした。
それで本のページを見せてあげると、女の子が信じられないというふうに見ていました。今でも縦組みと言うと、あの時のことを思い出します。
その時、縦組みってそんなに珍しいものなの? と思いました。
でも、やっぱり珍しいのです。
私はその後、指さし会話帳というシリーズを作って、いろんな外国語を扱いましたが、縦組みもある言語というのは、
中国語
韓国語
モンゴル語
、、、くらいでした。
英語など、ヨーロッパのアルファベットを使う言語は横組みですし、アラビア語も横組み。
東南アジアでいうと、、、、
ベトナム語はアルファベットを元にした文字を使うので横組み。
タイ語、ラオス語、カンボジア語、ミャンマー語は、左右の文字や上下の文字との組み合わせで読みが決まっていきますが、いずれも横組みが大前提です。
インドのヒンディー語や、ネパール語、ブータンのゾンカ語、このあたりも横組み。
そうやって仕事をしていくなかで、あの時の女の子の反応への納得が深まっていったのでした。縦組みって、本当に珍しいのだなと。
基本となる縦組み、右綴じの本
日本語の組版の基本は縦組みです。
代表的なものとしては、小説や新聞があげられます。
学校で作文を書くときの原稿用紙も縦書き、習字の時間も縦書きでしたよね?
縦組みの本は、表紙を手前にすると、右側が綴じてあって、左側を開いていきます。
これを「右綴じ」といいます。
縦組みの本は、ページを開いたときに、右上から始まって、最終的に左下へ進んでいきます。
最後まで行くと、またページを開いて、右上から始まって、左下へ。そして次のページ。。。
この繰り返しで進んでいきます。
縦組み、右綴じの例1 小説
縦組み、右綴じの例2 ビジネス書
縦組み、右綴じの例3 週刊誌
横組みの本は、左綴じ
一方、横組みの本です。昔から代表的なものを挙げると、、、、
・教科書
・語学のテキスト
・パソコンなどの入門書
・論文集(大学や研究所の紀要など)
・ガイドブック
このあたりになるでしょうか。
横組みの本を机に置くと、左側が綴じてあります。
これが「左綴じ」で、右側を開きます。
ページを開くと、左上から始まって、右下へ進んでいきます。
最後までいくと、ページを開いて、また左上から右下へと進みます。この繰り返しです。
横組み、左綴じの例1 ガイドブック
横組み、左綴じの例2 パソコンなどの入門書
横組み、左綴じの例3 語学書
どんどん増えている横組み
昔は手紙を書く便箋も縦が普通でした。ハガキを書くときなども、縦書きが普通でしたが、今は横が多いですよね。
この記事も含めてネットは全て、横組みですし。
文章を書くときも、ほとんどの場合は、スマホやパソコンで横組みだと思います。
縦組みと横組みが混在する特殊な環境
横組みがこれだけ増えていると、「縦組みは圧倒的に不利!」のように思いますが、実際はまだまだ健在です。
東京・池袋の駅でほんの2、3分縦組みの文字を探してみましたが、いろいろな形でちゃんと生き残っているのがわかります。
こうしてあらためて見ると、やっぱり縦組みも根強いです。
そしてサンプルの写真の中にもありますが、日本語が特殊なのは、縦組みと横組みの両方が混在することです。
縦組みだけど横組み→「和洋折衷本」
出版業界で今増えているのは、
「右綴じ=縦組みのはずなのに、中は横組み」
というタイプの本や雑誌です。
本全体の進む方向からすると、縦組みのように、右から左へ進みますが、中身は横組みで左から右へ読む。
つまり、外側は和風だけど、中身は洋風。
これぞ和洋折衷の、いわば「和洋折衷本」です。
日本の出版業界で根強いのは、縦組みです。
もともと、先に挙げた語学や技術書、学術書などテキストっぽい本以外は、縦組みが大前提だったのです。
雑誌も当然、縦組みが多く、新しい雑誌が作られるときも、右綴じ=縦組みが普通でした。
ですが、縦組みの本や雑誌が作られていく中で、だんだんと横組みの要素が増えていきました。
その結果として、「右綴じ=縦組みのはずなのに、中は横組み」の「和洋折衷本」が増えているのです。
右綴じx横組み「和洋折衷本」の例1 ガイドブック
右綴じx横組み「和洋折衷本」の例2 晴着のカタログ
右綴じx横組み「和洋折衷本」の例3 実用書
右綴じx横組み「和洋折衷本」の例4 実用書
「考え方」は縦組み、「各論」は横組みという使い分けも
実例の3、4で挙げた実用書『いつものウォーキングが最強のボディメイクに変わる! やせウォーク 4週間プログラム』『これだけでいい男の服』は、縦組みの文章も要所要所に入ります。
本全体の考え方の部分は縦組みでまとめて、各論部分は横組み、という作りになっています。
いずれも、非常にうまく作られていると思った本なので、ここに挙げさせていただきました。
なぜ「和洋折衷本」が生まれるのか?
横組みの内容が多いならば、最初から、横組み=左綴じにすればよいのに、と思うところですが、なぜ「和洋折衷本」になるのでしょうか?
おそらく、こんな理由です。
1)右綴じが普通
先に例として挙げた晴着のカタログのような場合に、毎月発行する雑誌ではないし、横組みが多いから左綴じで、としても良いはずですが、関わる人たちは、これまでも日本で雑誌を作ってきた編集者やデザイナーの方でしょう。
そうすると、これまでも右綴じに慣れているので、今回も右綴じにしておこう、という話になる。
こういうケースは多いはずです。
2)左綴じへの抵抗感
ある程度の期間、出版業界にいた人であれば、横組みで本を刊行することへの微妙な抵抗があると思います。
横組みの小説なんて、読みにくいのでは?
横組みのビジネス書なんて、テキストっぽく見えて売れないのでは?
横組みの雑誌なんて、違和感あると思われないかな?
読者が意識するかどうか以前に、出版する側が避けている面があります。
「和洋折衷本」のレイアウト
ただし、このスタイルがダメというわけではありません。
このゴチャマゼ感は、日本ぽいとも言えますし、この記事を書くにあたって、改めていろんな本を見直してみましたが、いろんな工夫がなされています。
そのポイントをまとめてみました。
1)右上にポイントを作る
ページを開いたときに、まず右上に目が行き、それから左へ進むようにします。
そのためには、最初に目に入る部分を右上に作るのが基本。
見出しや目立つ写真などを、右上に配置するようにします。
2)1ページごとに内容を固める
右ページの内容を読んで、左ページへ、という流れを守るために、左ページから右ページへ内容が続くことを避けます。
右ページの内容を読み終わり、左ページを読む、というルールでまとめていきます。
3)番号は効果的
読む順番に数字を付けておくと、大きな効果があります。
これは、今回この記事を書くにあたって理解しましたが、小さな数字でも効果絶大です。
4)写真や絵は左へ流れていくように
本を作るときに、絵や写真の向きは大事です。
左向きの絵柄を使うことによって、全体の流れが左へ向きます。
この1〜4で挙げたようなことを、普段本を読むときに意識される方は少ないと思います。
私も、読者として本を読むときは全然意識しません。
意識するとしたら、「なんだか読みづらいな?」という場合だけだと思います。
よく出来た本というのは、1〜4で挙げたような、作り手側の作為が見えないものなのです。
縦組み、横組みに数字や欧文の入る場合
縦組みでも横組みでも、欧文や数字をどう扱うか、これが非常に困ります。
半角で扱うのがよいか? 全角がよいか? という問題です。
たとえば、
「57年を経てTOKYO2020が7月に開幕。FIFAのHPにも掲載された」
という原稿がある場合です。
数字と欧文のうち「7」だけを最初から全角にしてあります。
縦組みと、横組みのサンプルを作ってみました。
縦組みの中での数字や欧文
縦組みの中に欧文が出てくる際に、横向きにすることもありますが、この原稿に出てくる要素の場合、全部縦向きにするほうがよいと思います。
インデザインのデフォルトでは、半角文字は横向きになるので、「縦組み中の欧文回転」「縦中横」などで縦向きにする必要があります。
または、半角文字を全角にすることで縦向きになります(検索置換に「文字種変換」というメニューがあります)。
原稿の種類や組版の都合で、整理のやり方は違うのですが、私は縦向きにする文字は全角に変換するのを基本としています。
横組みの中での数字や欧文
インデザインのデフォルトでは、半角文字と全角文字の間にアキが入ります。
ワードでも、自動的にアキが入りますがそれと同じです。
読者はあまり気にしないので、OKとする判断もありだと思いますが、伝統的な組版ルールでは、これはNGです。
また、半角文字の入り方によって、文字数が極端に少ない行ができてしまう場合があります。
この辺を整える作業が、どうしても発生します。
組版の設定にもよりますが、とくに横組みの場合は欧文・数字とも半角で整理するのがよいと思います。
ただ、実際に組版をすると、全角でも半角でも見た目は変わらない文字も多いです。
ですので、私は見た目でOKであれば、全角と半角のバラつきはあってもよいのでは? と考えるほうです
この辺は、会社や人によっても好みが分かれます。
組版の設定
サンプルで見ていただいたように、インデザインのデフォルトでは半角の文字と全角の文字の間が開いてしまいます。また半角文字は横を向いてしまいます。
この解消のためには、インデザインの場合、下記のような設定が必要となります。
欧文・数字と和文のアキの調整
「文字組みアキ量設定」→段落単位で欧文・数字と和文のアキ設定を変更する。
「カーニング」→和文等幅、メトリクスなどの設定をする。
文字のカーニングについては下記の記事も参考にしてください。
縦組みの中の欧文の向きを整える組版の設定
縦組みの中の、欧文の向きを整えるためには、下記の設定が有効です。
「縦組み中の欧文回転」→欧文・半角数字を1文字ずつ縦向きにする。
「縦中横」→連続する欧文・半角数字をセットで縦向きにする。
「自動縦中横」→「縦中横」を自動的に処理する。1文字まで、2文字まで等の設定あり。
縦組みの文字処理の具体例
私は通常、下記のように組むのを基本としています。
数字:2桁は「縦中横」、それ以外は縦に並べる。
12万4000のように、「千」は入れず「万」「億」は入れる。
欧文:6文字くらいをめどに、横向きにする。
iPhone、Amazon、FIFA、GUCCI、このあたりは無理矢理縦にしてしまってよいと思います。
実際に、いろんな本を見てみると、それぞれがそれぞれのルールで処理していることがわかります。統一された決まりがあるわけではありません。
ここで挙げる例も、一つの例としてお考えください。
縦組みを嫌っているような原稿!
上の図で挙げた例の中に、
Kis-My-Ft2のファーストアルバム「Kis-My-1st」の2曲目は「Girl is mine」、3曲目は「SHE! HER! HER!」
というのを入れましたが、実際にこういうケースにぶつかることがあります。
SMAP、TOKIOは縦組みにも適していますが、Snow Man、NiziUとかだと、縦にしたときに、かなり妙な感じはします。Kis-My-Ft2はどうなのでしょうか。キスマイと書くほうが良いのか?? その場合もアルバム名と曲名はどうしたものか、、、結局悩みに終わりはありません。縦組みには、こういう問題が必ず発生します。
しょうがないと割り切って、決めていくしかないです。
マンガという縦組み文化
今回の記事を書いていて、何年か経つと、左綴じ横組みの本が普通になるのかもしれないなあ、とも思ったのですが、日本の出版文化の中で、非常に強い右綴じ縦組みの勢力があり、それがマンガです。
マンガはフキダシもト書きも縦組みが基本となっていて、マンガ家という方たちはその方法論をきちんと学んでいます。
一つのコマのフキダシは右から読まれるので、人の向きや人の配置、セリフの順番など全部考えながらページを構築していきます。
これが横書きになるとしたら、マンガ家の方たちは、今までの習慣を完全に逆転することになります。
そんなことがあり得るのか??? とは思います。
美しい縦組み
最後に、1982年に刊行された美術手帖別冊の文字組みの紹介です。
本文が縦組み、写真のキャプションも縦組みで非常に美しくまとめられています。
キャプションが縦組みでも、こんなに美しくまとめられるんだ! と改めて驚いたので紹介しました。
でも、もう40年も前に出版された本なんですね!
今となっては、こういう本作りは難しいかもしれません。