『私の作る郷土料理』雑誌「クウネル」の丁寧な取材と編集で作られた本

レシピ紹介と同時に文化を伝える本

この本の目次を開くと

「おにぎり」「温麺」「そうめん」「がんづき」「おはぎとぼたもち」「するめの料理」

のように、いろんな郷土料理が紹介されています。

それぞれの料理について、地元を訪れ、その料理を作っている人の姿を撮影し、その暮らしの中のどんな場面で食べるのか?を伝えている、そういう作りの本です。

『私の作る郷土料理』ふるさとごはん会・編、マガジンハウス、2006年

レシピも簡単に載っていて、自分で作ることもできます。
私自身、にゅうめん、かしわめしは、この本で読んだことを思いながらいつも作ります。
広島風お好み焼きはこの本のやり方で作ります。

雑誌「クウネル」から生まれた本

この文章を書こうと思って改めてみてみたら元になった雑誌は「クウネル」でした。
「クウネル」は2002年に創刊されて、ライフスタイル雑誌として独特の存在感を持っていました。

ただし、2016年には全く違う路線でリニューアルされています。

昔のクウネルを懐かしむ声をネットで見てみると、地方の料理、田舎暮らし、弁当、ホーロー、癒される、みたいな言葉が出てきます。

雑誌にパワーがあった時代

クウネルが創刊されて、この本が出るくらいまでの2000年台前半の頃は、まだまだ出版にパワーがありました。
今になって振り返れば、そういう時代だからこそ作ることが出来た本と言えます。

おそらく、地方へ取材に行くときに、編集者とライター・カメラマンがチームで行くようなこともあったのではないでしょうか。
どういう写真を撮影して、多数の写真の中から何を選んで、文章では取材した中の何を拾い上げて、それらをどう組み合わせてページにするか、そういうことを丁寧に組み立ててどのページも作られています。

でも、今は出版社はどこも厳しく余裕がない会社も多いです。
「クウネル」がリニューアルされたのも、そういう影響があるはずです。

インスタがある時代だけど本の楽しさもある

今となっては、こういう地方料理のレシピも、それを作っている人もインスタグラムで探せばいくらでも見つかる時代です。海外の情報であってもすぐに手に入ります。

そういう意味では、この本に載っているような「するめのてんぷら」みたいなメニューも、本で見つけなくてもよいのかもしれません。

そういうネガティブな感想もあるものの、いろんな地方の料理が一冊にまとまることでのパワーもやっぱりあると思います。
2000年代の地方へ行けば、まだまだこういう料理があったことはわかります。
何よりページを開いていって楽しいです。
それが形となって残る。そこに本という形態の意味はあるように思います。

hosokawakobo
細川生朗 Hosokawa Seiro
1967年生まれ。1991年に情報センター出版局に入社。『水原勇気0勝3敗11S』『いちど尾行をしてみたかった』『笑う出産』などのヒット作を編集。1994年に『きょうからの無職生活マニュアル』、1998年に『旅の指さし会話帳①タイ』を企画・編集。いずれも累計100万部以上のシリーズとなる。2001年に情報センター出版局を退職。その後、フリーの編集者として、実用書を中心にした単行本の企画・編集、自費出版の写真集や記録集の編集、社史の編纂などを手がけつつ、指さし会話帳シリーズの編集も続けている。