『百万人のカードゲーム』口絵のページ構成で訴える

小学生の頃に実家にあって、大好きだった、トランプの遊び方の本です。
実家にはもうなくなってしまったので、2019年にヤフオクで買いました。

奥付を見てみると1951年初版。大阪のユニバーサルトランプという会社が発行していたもので、1962年の時点で改訂四版累計30万部となっています。
本文中にところどころ、ユニバーサルトランプの広告も入っています。
トランプの遊び方を紹介し、普及させ、自社製品を売るという目的があって発行されたのだと思います。

目次をみると
「オールド・メイド(婆抜き)、ダウト、七並べ、
ドンキイ、ページ・ワン、二十一、ブリッジ、
ポーカー、ラミー、カナスタ」
等々カードゲームがたくさん紹介されています。

占いページもあり、一人遊び篇もあります。
今、パソコンにはだいたいトランプの一人遊びのゲームが入っていますが、こういうゲームがあることを、最初に私が知ったのは、この本を通してでした。全部のカードがなくなるまで、何度も何度もやっていました。

この本が好きなところ、いろいろあるのですが、、、、

1)表紙がシンプルで美しい
2)カードの絵柄が丁寧できれい
3)その絵柄が並べられたときに、なんとも言えない美しさと楽しさがある
4)見出しや強調する文字のゴシックが、うるさすぎずちょうどよい
5)ページをめくるときの紙の感じが心地よい。大きさもよい
6)カードゲームが、いろんなジャンルでどっさり入っている

といった点です。

今の本の世界からすると、明らかに古いのですが、本の一番最初・口絵部分のポーカーの役とかを見たときに、美しくて楽しい、何かわくわくする、そういうとこがあります。

たぶんこれは、この本を編集した人が、わくわくするように作ったからなのでしょう。

口絵1ページ目:ラミーとカナスタの、6種類の役を紹介しています

口絵2-3ページ目:ポーカーの役、11種類を手に持ったように広げる形で紹介しています。

口絵4ページ目:二十一(ブラックジャック)の役、2種類を紹介しています。広告もあります。

ページ数の限られる口絵に何を入れるか?

カラーのページは、白黒のページよりも印刷費が高くかかります。
単純に言うと、黒いインクだけ印刷するのと比べて、何度も印刷しないといけないからです。

また、印刷するための版を作る製版代もかかります。
私が出版社に就職した1990年代の最初は、カラーの写真や図版を1点を掲載するための製版代が4000円かかった記憶があります。10点入れれば4万円。それに加えて印刷費もかかります。

カラーページをたくさん入れたいけれど、金額的に難しい。
その結果として、最初の数ページだけカラーのページを作るのです。
この本で入れたのは4ページ。

その中で何を見せるかを編集者は考えるのですが、この本では、本格的なカードゲームの役を見せることになったのでしょう。
七並べの置き方を貴重なカラーページで紹介するのも間抜けですし、一人遊びは口絵には向かないですから。

そうして口絵4ページに掲載しようと選ばれたのは、
・ポーカー
・ブラックジャック
・ラミー
・カナスタ
、、、この4つ。

1ページ目は、これは結構豪速球。
ラミーとカナスタ!
知名度が低いけど本格的というのを持ってきてあります。
正直とっつきにくい。でもこれによって、この本の本格派な印象を作っているところがあります。

2-3ページは見開きですから、華やかなページ、楽しそうなページにしたいところ。
ここは、知名度が高いポーカーの役をたくさん並べよう。
絵札もたくさん入ってにぎやかな印象になる。
なにより、こんなのやってみたいなあと思わせるページになる。

4ページ目は、ブラックジャックと広告。
という構成です。

私だったら日和ってブラックジャックは口絵の1ページ目に入れると思います。
最初に「あ、聞いたことある」みたいな感じを入れとくほうが、よいかなと考えて。

でも、この本の編集者は、豪速球を投げて「すげえ本格的な本だぞ!」とかましておいて、ページをめくるとポーカーの役がたくさんのってる楽しいページ、という展開を選んだのでしょう。そしてそれが成功しています。
本当に口絵のお手本だと思います。

この文章を書いた経緯

もともと、この文章を書いたのは、2020年5月にFacebookでブックカバーバトンを受け取ったことがきっかけです。

ブックカバーを7日連続で紹介するという試みです。紹介しながら、いろんな人にバトンを託していくというルールでしたが、バトンをもらって困ったのは、私が本を作る仕事をしていることでした。

今まで作った本を紹介して、その本の著者や関係者の方にバトンを託せば、著者の方々へのご連絡にもなるし、無難なところです。
あるいは、知り合いの方が出された本を紹介するというのもいいかもしれない。

、、、と思ったのですが、それをやろうとすると、いろんな忖度が必要になるなあと思いました。
ある程度ラインナップも考えたのですが、一度やめにして、自分が好きな本を7日間紹介することにしました。

そうしたら、自分は昔からこういう本が好きだったのか、という発見がありました。
また、自分が本のことを語ると、編集者が本を作る中でどう関わっているかを書くことになるのだなとも思いました。

ブックカバーバトンで書いた文章をまずは掲載していこうと思います。

hosokawakobo
細川生朗 Hosokawa Seiro
1967年生まれ。1991年に情報センター出版局に入社。『水原勇気0勝3敗11S』『いちど尾行をしてみたかった』『笑う出産』などのヒット作を編集。1994年に『きょうからの無職生活マニュアル』、1998年に『旅の指さし会話帳①タイ』を企画・編集。いずれも累計100万部以上のシリーズとなる。2001年に情報センター出版局を退職。その後、フリーの編集者として、実用書を中心にした単行本の企画・編集、自費出版の写真集や記録集の編集、社史の編纂などを手がけつつ、指さし会話帳シリーズの編集も続けている。