『あたらしい、あしらい。』出版業界のかなりの優等生
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職業的に必要な本
編集の仕事をしていて、ときどきレイアウトも自分でやっています。
これまでの仕事を振り返ると、自分もよいデザイン・レイアウトをした事例もありますが(と自分では考えています)、決して得意ではありません。
ただし、毎度毎度の案件を全部デザイナーに発注することもできません。
ある程度は自分でやらないといけないので、デザイン関連の本を時々購入します。
色の組み合わせ、罫線や飾りなどのパーツ、デザインの最近の流れ、そういった本です。
買うときは何か充実感がありますし、買っておくと、いざ困ったときに助けられることも多いです。
池袋の書店で資料を探していた時に、たまたま見かけて買ったのがこの本です。
『あたらしい、あしらい。』ingectar‐e著、ソシム発行
前作があってこの本
私自身は知りませんでしたが、同じ著者で『けっきょく、よはく。』、『ほんとに、フォント。』という本が出ているようです(いずれも240ページ、1800円)。
つまり、ある程度の実績があって出た本ではあるのでしょう。
でも、本のレイアウトをする上で余白、フォント、を語られることは多くても、今時の感じになるためのちょっとした「あしらい」を言われたことはなかったので、面白い本と思いました。
amazonを見てみると、著者は、前作の後に、他社からいくつか本を出しているようです。
売れる本が出ると著者のもとにはいろいろな出版社から引き合いがあります。それは当然のことなのですが、本が売れるときに著者の力だけで売れているものでもないのです。
編集者とか営業部の仲間とか、さらに言えば総務・経理等々、いろんな人の力が合わさって本は売れるものです。著者の力は偉大です。それを否定する気持ちは全くありませんが、それ以外の力も大きいです。
この本の著者、ingectar‐eさんも、実戦経験豊富でテクニックの引き出しも多くアイデアも多いすごい方なのでしょう。ただ、それを理解してうまくページ上に載せている編集者もいて、この本の良さが出来ているのだろうと思います。会社の中のいろんな方も、それぞれ力を発揮したのでしょう。
「必備」のスリップ
スリップをご存知ですか?
書籍業界で言うスリップは、本にはさまれている短冊のことです。
短冊自体が書籍業界の言葉かもしれません。本を買うと、上に飛び出ている紙を引っ張って抜いてくれる、それのことです(スリップについては、また他のところで書きます)。
抜いたスリップに、書店はハンコを押して、本の問屋に渡すことで売れた本の注文が出来ます。また、売れた本の冊数をPOSレジがない時代にも記録することが出来ました。
現在は、そういう昔ながらの仕組みがズタズタの状態ではあります。
でも、たまたま私が購入したこの本では、この仕組みが生きていました。
写真を見てください!これは、購入後に気づいて撮影したスリップです。
現金用のセルフレジで買い物したところ、スリップを抜き忘れて、カフェで読んでいる時に気づきました(その後、お店に返却しに行きました)。
「必備図書カード」と書いてありますね。この本を書店に常に置いておく銘柄と考えて、売れたらすぐに補充するためのものです。裏面にはいつ売れたかを記録するはんこが押してあります。
これが、、、!
よく売れていました。最初の画像にこの裏面を入れてあります。あえてボカしておきますので、気になる方は、池袋の書店を探してみてください。
もちろん、こういうことも、出版社の営業さん、問屋さん(取次)、書店さん、それぞれの連携がないと成り立ちません。よいコンテンツを作る著者がいて、それを本に載せる編集者がいて、その編集者の熱意につき動かされた営業の方が書店にアプローチして、書店の担当の方が棚に並べてくれて、、、それで読者の目に触れて売れていく。売れた上でスリップで回転する本になる。それが本の辿る幸せな道で、この本はそういう道を辿っているのです。
優等生な本
昔の図書館や、学校の図書室では、貸し出しカードというのがあって、本の後ろのスタンプでいつ貸し出しがあったかがわかりました。人気の本は、たくさんスタンプが押されて、その紙が何枚もノリ付けされて重なっていたものです。
常備のスリップのハンコはこれに似たものです。実際にそのお店で売れた記録が記入されて残っているのですからすごいことです。
こういった、書店の棚に置いておけば自然と売れていく本というのがあるのです。
でも、そんなことは、いろいろと幸福なことが重ならないと起こりません。
この本も、著者と出版社の幸福な出会いがあったのだと思います。