『ILLUSTRATION2017』企画もまとめ方も見事な新しい世代のイラストレーターの見本帖
この記事の目次
イラストを頼む時のガイドブック
仕事でイラストを頼むことがあります。本の編集をしている場合でいえば、
・カバー用の絵
・説明用のイラスト
・人物やキャラクター
などをお願いするようなケースです。
知り合いがたくさんいて、ちょうどよい方を見つけられればよいですが、難しいもの。
そういう時によい方を見つけるための見本帖のような本があります。
私が業界に入った1991年にも、編集部の書棚に『イラストレーションファイル』という本が置かれていました。
もともとは、そういう見本帖的な先例があり、作られた本といってよいと思います。
なにか違う脈絡の人たち
2010年代前半くらいからでしょうか? 小説の装丁に今までと違う感じのイラストが使われはじめて、新鮮な思いがしました。
新宿の紀伊國屋書店で、この本を見たときに、あ、そういう人たちが載ってる! と思いました。
『ILLUSTRATION2017』平泉康児編、翔泳社
以前から、『イラストレーションファイル』にイラストを描く人がたくさん載っているのは知っていました。
でも、この本には、なにか脈絡の違う人たちがまとめられている。
こういう切り取り方があったなんて! と素直に驚きました。
私などは、そういうイラストを描く人たちは縁がなかろう、と思っていたけれど、ちょうどよい企画があれば頼めるかもしれない! とも思いました。
そんなふうに、すごく気になる本だったので購入したのです。
切り取り方がうまい
私が買った「2017」は3年目、その後「2021」まで毎年刊行されているようです。
今いろいろ調べてみると、
- 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が2009年刊
- 恋愛シミュレーションゲーム「ラブプラス」人気で、熱海でイベントが行われたのが2010年
- 『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が2013年刊
私が、本のビジュアルの作り方がだいぶ変わったな、と思ったのはこの頃なんだろうと思います。
2004年に刊行された『野ブタ。をプロデュース』のカバービジュアルは黒板に白いチョークの文字でした。
もし2014年に刊行されたら、ビジュアルはイラストだったかもしれません。
見本帖としての意味合い
『イラストレーションファイル』も『ILLUSTRATION2017』も、イラストレーターの連絡先が掲載されています。
『ILLUSTRATION2017』の場合でいうと、コメント欄があり、仕事する上でのモットーなども書かれています。
実際に初めて依頼する場合には、どんな人なのかはすごく気になります。
こういうちょっとしたコメントでも、頼む側は熟読するはずです。
今はイラストレーターが自分の作品を見せる方法もいろいろあり、pixivが代表と思います。
ただし、私もpixivから探そうとした経験がありますが、商業ベースの仕事にどれだけ適合してくれるかどうか?
どれだけコミュニケーションがとれるか?
といった見極めをすることは非常に難しく、また多くの方の作品を見られる分、ちょうどよい方を見つけるのは至難の業です。
そこに、こういう本の存在価値があるのです。
本としてのバランス
この本がすごいなあ、と思うのは、いろいろとうまくバランスをとっていることです。
いくつか挙げると、、、
1)新しい人たちを切り取って斬新な印象で紹介している
2)連絡先や簡単なコメントなど、イラストの発注/受注につながるような実用面も押さえている
3)収録されている人数は150人。これはものすごく多いわけではないけれど、本の厚さなどを適正にコントロールしている
といったことがあります。
3については、次の写真を見てください。
右側のこの本が320ページです。左側の『沈黙のWebライティング」は632ページ。ほぼ2倍の差があるのですが、並べてみると厚さはだいたい同じに感じられます。
紙の厚さの選び方で、本の厚さはコントロールできます。
この本、『ILLUSTRATION2017』の場合は、新しい人たちをこんなに揃えたすごい本! という打ち出しが必要なので、ある程度厚くしたのだと思います。
本を持ったときの充実感は、そういうところからも生まれるのです。
切り口が新しく、実用面も押さえて、造本も丁寧に考えている、ほかにもいろいろとすごい本です!
本の厚さのことを「束(つか)」といいます。
束がどう決まるのか? 記事を書いているので、ご興味持たれたらぜひお読みください。