『韓国のダンチョン한국의 단청』伝統文化を記録するひたすら贅沢な本

韓国の木造建築の驚き

初めての海外旅行で訪ねた国は韓国でした。
1987年、オリンピックを翌年に控えたソウルは、あちこちで工事が行われていました。
今のソウルは地下鉄でかなりの広範囲まで自由に行き来できますが、その頃は地下鉄が3本くらいだったかと思います。

イテウォンまでバスを乗り継いでたどりついたり、水原まで行く列車の中で傷痍軍人に遭遇したり、今のソウルとはだいぶ違いました。
でも人はとてもあたたかく、コムタン等々のスープが美味しく、軍服姿の男性が多いことが印象的でした。

同時に、名所旧跡に行くと、木造建築がきれいな色で塗られていることも非常に印象的でした。

日本は木造建築が古びていくときに、あまり手を加えないほうを選びますが、韓国は逆で定期的に色を塗り直していきます。
日光東照宮のやり方と同じと言えるかと思います。

韓国で見たときに、非常に違和感がありましたが、国も違えばこういう部分の考え方も違うのだなあと、考えさせてくれるものでした。

日本で見かけてソウルで購入した本

この本を最初に見たのは、日本の書店でした。韓国で見たようなきれいな模様が、とにかくたくさん図版で紹介されている本です。
一目見て「欲しい!」と思ったものの、おそらく7~8千円くらいしたのだと思います。躊躇して買いませんでした。

数年後に韓国を旅行したときに、教保文庫を訪ねる時間がありました。教保文庫は日本でいえば紀伊國屋書店やジュンク堂書店のような、大規模書店です。

その日は「旅の指さし会話帳」を持たずに出歩いていたので、テンプル、ビューテイフル、ペインティング、ビッグブック等々、無茶苦茶な英語で店員さんに聞いたところ、本のある場所を教えてくれて、購入できたというわけです。

『한국의 단청(韓国のダンチョン)』곽동해著/학연문화사発行/2002年

この時に、どうやらこの模様のことを「ダンチョン」と言うらしいとわかりました。

ダンチョンの全てといった内容

こういった、模様がたくさん収録された本を開くと、見ているだけで幸福になります。
それだけでも嬉しいのですが、この本は、使われる絵の具や塗り方の手順なども写真付きで解説されています。
相当な手間とお金を費やして作られている本のようです。

516ページのハードカバー、白黒ページもそのうち半分くらいはあるのですが、膨大な写真を撮影するための取材経費や、文様を収録するためにトレースの費用等々、助成金などがあって成立したのかもしれません。
こんな本を編集してみたい、という憧れはあるのですが、この文章を書きながら考えてみると、出版社に勤務している編集者が他の本も進めながら、コツコツと数年がかりで編集するのでないと、難しいかもしれないです。
そのくらいに手強い、すごい本です。

hosokawakobo
細川生朗 Hosokawa Seiro
1967年生まれ。1991年に情報センター出版局に入社。『水原勇気0勝3敗11S』『いちど尾行をしてみたかった』『笑う出産』などのヒット作を編集。1994年に『きょうからの無職生活マニュアル』、1998年に『旅の指さし会話帳①タイ』を企画・編集。いずれも累計100万部以上のシリーズとなる。2001年に情報センター出版局を退職。その後、フリーの編集者として、実用書を中心にした単行本の企画・編集、自費出版の写真集や記録集の編集、社史の編纂などを手がけつつ、指さし会話帳シリーズの編集も続けている。