『GACP German Apsara Conservation Project at Angkor Wat』印刷物にすることで記録が残る

アンコールワットで出会った冊子

2001年の1月にアンコールワットへ行く機会がありました。
当時観光客はまだそれほど多くはなく、ゆっくりと見ることが出来たこともあって、非常に感動しました。

見終わった後、敷地の片隅にある小屋のようなところで写真を買い求めました。
A5サイズくらいの写真がたしか3000円くらいした記憶があります。
2枚買いましたが、その写真は単にお土産ではなくて、アンコールワットの彫像の保存活動をしているドイツの機関への寄付を兼ねていました。
この冊子はその写真購入時にもらったものです。

タイトルは『GACP German Apsara Conservation Project at Angkor Wat』。
A5判32ページ。
著者はHans Leisen, Jaroslav Poncar, Simon Warrackとなっています。

タイトルに含まれている、Apsara=アプサラとは、アンコールワットに多数彫られている天女のことです。Conserevationは「保全」。
つまり、冊子のタイトルは『ドイツによるアンコールワットでの天女像保全プロジェクト』となります。GACPというプロジェクトが当時あって、その活動をまとめたものなのです。

記録として貴重なもの

20年前にもらった冊子を保管していたのには、それなりの理由があります。

ガイドブックなどを作ってきた経験から、海外の貴重な資料を手に入れたら簡単には捨てられません。
この小冊子は、遺跡の保全活動について、その現場の写真をきちんと収めているという点で素晴らしいと思ったので取っておいたのです。

遺跡の歴史やきれいな写真をまとめた出版物は多いですが、修復の様子が収められた本にはなかなかお目にかかれません。そういう現場にいる人たちが、その作業を世に広めて残す必要がある、と思わなければまとまることはないからです。
この小冊子の場合は、保全活動を伝えることで寄付を募るという目的があったのだと思います。

また、ドイツのグループが修復に携わるなかで、保全活動そのものの記録をまとめるべきと考えたのだろうと思います。

涙が出そうになる写真の数々

修復作業の写真の一つひとつが、負傷者に手当をするようで、見ていて心に突き刺さります。
アンコールワットで、実際に彫像を見た者からすると、その思いはなおさらです。

ほほえむ天女たちが、傷つき、このままでは崩れ落ちてしまうかもしれない。
それを救うための保全活動は治療行為に見えてきます。
20年たった今見ても、涙が出そうになります。

おそらく、アンコールワットの小屋で写真を買ったときの私も、こういった写真を見て「3000円の写真を2枚購入して少しでもお役にたつならば」と思ったのでしょう。

印刷物になることで記録が残る

この保全活動をしていたGACPはHPを持っていて、現在の活動を紹介しています。
ただし、この冊子に掲載されているのは樹脂で補強するような形の保全だったのに対して、現在はコンクリートなどを塗り足して彫刻を作っていくような保全になっているようです。
HPのクオリティも、この小冊子ほどには高くないように思えます。

その時代の活動の内容は、その時のことをよく知っている人が手間をかけてまとめないと散逸してしまいます。
ネットにはたくさん情報がありますが、印刷物にすることで残る情報もあるのです。

hosokawakobo
細川生朗 Hosokawa Seiro
1967年生まれ。1991年に情報センター出版局に入社。『水原勇気0勝3敗11S』『いちど尾行をしてみたかった』『笑う出産』などのヒット作を編集。1994年に『きょうからの無職生活マニュアル』、1998年に『旅の指さし会話帳①タイ』を企画・編集。いずれも累計100万部以上のシリーズとなる。2001年に情報センター出版局を退職。その後、フリーの編集者として、実用書を中心にした単行本の企画・編集、自費出版の写真集や記録集の編集、社史の編纂などを手がけつつ、指さし会話帳シリーズの編集も続けている。