『ロンドンでしたい100のこと』見出しの作り方が絶妙
2019年の6月に初めてヨーロッパへ行きました。
ロンドン、ベルリン、ベネチア、フィレンツェ、ミラノを駆け足で巡る旅でした。
この記事の目次
ロンドンで参考にした本
最初に到着したロンドンで街歩きの参考にしたのが、この本です。
『ロンドンでしたい100のこと』(自由国民社/あうそる~とロンドン、江國まゆ、ネモ・ロバーツ)。
これがすごくよかったのです。3泊の間に、掲載されていた場所に5箇所くらい行きました。
紹介されているのは、カフェ、パン屋さん、書店、市場、パブ、ホテル、セレクトショップ、博物館、公園など。
こうやって書き出してみると、紹介されている項目自体は普通のガイドブックと同じなのですが、サブタイトルに「大好きな街を暮らすように楽しむ旅」とあるように、東京の人が東京の街で買い物したり、買い食いするような目線/気分で歩く、そのスタイルが本全体を貫いています。
ガイドブックの呪縛
私もガイドブックを作ったことはあり、旅行関連の本にも携わっているのでよく思うのですが、定番で外せないという項目があり、その扱いが難しい。
どの本にも載っていて、あえて書かなくても、誰でも知ってるのでは?みたいな項目です。
東京で言えば二重橋や、上野の博物館/美術館みたいな場所。今ならネットで調べれば読み切れないほどの情報があるでしょう。
それよりは、デパ地下のイートインとか、品揃えのすごい世界堂とか、日本橋に集まる各県のアンテナショップとか、、、そんなことのほうが東京のオススメとしては面白いと思います。
でも、ガイドブックというのは、定番を外すのが難しい。
初めて東京に来る読者には二重橋や東京タワーへの行き方を説明しとかないと、なんで入ってない?ということになるかな?と思うからです。
この本がよいのは、定番を外しているのに、ガイドブックとして成立しているところです。
「おお、この店おいしそう」と思って訪ねると、住宅街にぽつんとあるデリだったり、市場の中のごく普通の肉屋さんだったりする。でも、どちらもちゃんと美味しい。
地図もよく出来ています。Google Mapも使いつつ、本の地図も見て散歩して辿りつく、これが最高でした。
100項目が雑然と並ぶ楽しさ
タイトルにある通り、この本では100の項目を紹介しています。100個は、まとめようによっては、買い物、観光、食事、宿泊みたいに分けることもできる。あるいは場所で分類することもできるけれど、この本ではそういう分類にはしていません。
目次を見ると、
1章)ロンドンの日常を切り取る 2章)本当に美味しいロンドンをほおばる 3章)ロンドナーのライフスタイルを生活に取り入れる 4章)自分だけの体験を持って帰る
となっています(本当は「章」と付いていないのですが、ここでは説明のために「章」と付けさせていただきました)。
食事関連の話題も2章だけに出て来るわけではなくて、1章にも、3章にも、4章にも出て来ます。
そして、あっちこっちの場所がバラバラに登場します。
いろんな体験を整理整頓しすぎると勢いが失われると計算して、あえて雑然とまぜあわせたのか、そこまでの分類をしようとは思わなかったのか? ちょっとそこはわかりません。
でも、その雑然とした感じが、街歩きで何かにいきなりぶつかる印象のように、本全体にただよっています。
それも本の魅力になっています。
逆にいうと、ある場所周辺のスポットを調べたり、関連項目を調べる上では不便です。
地図や索引で調べられるようになってはいますが、調べにくさは残ります。
グループの見出しが絶妙!
この本で、「うまいなあ」と思った箇所があり、、、それが「グループの見出し」です。
雑然とした感じで項目が並んで行く中で、2つ〜5つくらいの項目をまとめたグループが作られています。
100個の項目が、なんの整理もされずに並んでいると、読者は全体像を把握するのが難しい。
でも、ある程度の項目をまとめてグループを作ってあると、脈絡をつかんでそれぞれの項目を読んでいくことができるのです。
それぞれのグループには「グループの見出し」がつけられています。
「グループの見出し」は、たとえばこんな感じです。
「心ほどけるおやつの時間を持つ」
「あまい誘惑に駆られる」
「心地好い彩りを探しに行く」
すごく丁寧に見出しがつけられています。イラストも添えられていて、読者がそんなふうにロンドンを歩きたいなあ、と思うように導かれるという仕組みになっています。
ただ、「グループの見出し」とは別に「項目の見出し」もあるので、それぞれをどのくらいのバランスで入れるかは難しい。
雑然といろんな項目が並ぶ本の中で、「グループの見出し」は、住所表示みたいなもので、読者に対して「いまこの辺りにいますよ」と伝える役目を持つ必要があります。
そうするとある程度目立つべき。でも、あんまり目立つと、メインディッシュである「項目の見出し」とぶつかってしまって、うるさくなる。
とくにこの本は、写真と文章、住所などの基本情報と要素が多いので、配慮が必要です。
その辺のバランスの取り方が、言葉の選び方、デザイン処理ともに、すごくうまいなあと思いました。
よく出来た編集は読者からは見えない
たぶん、これは、編集者と著者との間で、項目をどういう並べ方にするか? どういうグループを作るかで相談を重ね、その上でデザイナーとも、見出しのバランスを検討して出来た結果なのではないかと思います。
こういう絶妙なバランスは、どこかから自然とわき上がってくることはありません。誰かが考えないといけない。この本でもたぶん、編集の方がコントロールしているのだろうと思います。
そして、よくコントロールされた本というのは、編集者の作為は読者からは見えません。自然にスムーズに内容に入っていけるので、読者はただ自然に読む。編集者がよい仕事をしたときは、編集者の存在は見えない、そういうものなのです。